Japanese, English (最終更新 2022.02.21)
 これまで取り組んできた研究内容を簡単に紹介します。

3. 超強磁場領域におけるルビーR線の異常ゼーマン効果の観測

 身近な宝石であるルビーでは、アルミナ (Al2O3) 中にごく少量のCr3+イオンが含まれています。ルビーの吸収スペクトルは694 nm付近にR線と呼ばれるシャープなピークが存在することから、古くから分光学的研究が盛んに行われており、配位子場理論の構築や固体レーザーへの応用などに多大な貢献を果たしてきました。

 このR線は、スピン-軌道相互作用と三回対称場によってわずかに分裂した2つの励起二重項2Eから基底四重項4A2へのスピン禁制遷移に対応します。ルビーに磁場を印加すると、2つの励起準位が混成することによる異常ゼーマン効果、そしてさらなる強磁場下ではゼーマン分裂が線形な磁場依存性に漸近するパッシェン-バック効果が観測されることが知られていました。本研究では、230 Tまでの超強磁場領域におけるR線のゼーマン分裂を初めて観測し、100 T以上で新たな非線形な振る舞いを発見しました。この観測結果は、第二励起状態2T1が混成することで結晶場中の2E準位において消失していた軌道成分が顕になったためだと説明できます。この過程でエネルギー準位の良い量子数の再構成されることから、これは結晶場中におけるパッシェン-バック効果の前兆であると言えます。

関連論文: 研究業績欄の論文番号 [4]
Ruby


2. ブリージングパイロクロア磁性体の強磁場磁化過程の観測

 S=3/2のCrイオンがパイロクロア格子を組むクロムスピネル酸化物は、強磁場中でロバストな1/2プラトー相を発現することから長年注目されてきました。この系では、反強磁性の交換相互作用のために強いフラストレーションを有しており、スピン-格子結合が物性に重要な役割を果たすことが知られています。

 一方で、ブリージングパイロクロア格子を組んだ系に対する磁場下での研究はあまり行われておらず、未知の新奇現象を秘めている可能性があります。この系では、大小の四面体内の最近接交換相互作用の強さが異なるのが特徴です。LiInCr4O8ではJ'〜0.1Jと孤立四面体に近い一方で、CuInCr4S8ではJ'が強磁性となっており、いずれも従来のクロムスピネル化合物とは異なる基底状態を実現します。我々は両物質に対して超強磁場下での磁化測定を行い、例えばCuInCr4S8では65〜110 Tにおいて1/2プラトー相を発現し、さらに低磁場側の広い磁場領域で中間相(cant 2:1:1相)を発現するなど、特徴的な磁化過程を示すことを明らかにしました。引き続き磁歪測定などの実験や理論研究を進めており、今後より詳細な議論を展開していく予定です。

関連論文: 研究業績欄の論文番号 [1]、[3]
CuInCr4S8


1. 超強磁場発生装置を用いた磁化測定手法の開発

 一巻きコイル法磁場発生装置を用いた誘導法による磁化測定技術をさらに向上させ、従来は困難だった150 Tまでの精密磁化測定を可能にしました。検出プローブとして、新たに同軸型の磁化ピックアップコイルを適用したのが特徴です。今後、様々な磁性体の強磁場磁化測定への応用が期待されます。また、電磁濃縮法磁場発生装置を用いた200 T以上での磁化測定も現在試みています。

関連論文: 研究業績欄の論文番号 [1]、[3]
Magnetization