消滅則

慣用的な単位胞とPrimitiveな単位胞の違いから来る消滅則と らせん操作や映進操作に由来する消滅則について理解する。

単純格子以外のBravais格子の消滅則

Bravais格子の復習

体心格子

体心格子では、慣用的な単位胞の0,0,0と1/2,1/2,1/2に格子点がある。 このときの結晶構造因子を考えると、
exp 2πi0+exp2πi(h+k+l)/2
= 1+(−1)h+k+l
という因子が必ず出てくる。 この式の値は、h+k+lが偶数なら2、奇数なら0である。 すなわち、回折が生じるのはh+k+lが偶数のときだけである。

面心格子

面心格子では、慣用的な単位胞の0,0,0と0,1/2,1/2と1/2,0,1/2と1/2,1/2,0に格子点がある。 このときの結晶構造因子を考えると、
exp 2πi0+exp2πi(k+l)/2+exp2πi(h+l)/2 +exp2πi(h+k)/2
= 1+(−1)k+l+(−1)h+l+(−1)h+k
という因子が必ず出てくる。 この式の値は、h,k,lがすべて偶数なら4、すべて奇数なら4、偶数と奇数が混ざると0となる。 すなわち、回折が生じるのはh,k,lがすべて偶数かすべて奇数のときだけである。

底心格子

C底心の格子では、慣用的な単位胞の0,0,0と1/2,1/2,0に格子点がある。 このときの結晶構造因子を考えると、
exp 2πi0+exp2πi(h+k)/2
= 1+(−1)h+k
という因子が必ず出てくる。 この式の値は、h+kが偶数のとき2、奇数のとき0となる。
同様に、A底心ではk+lが偶数のときのみ、B底心ではh+lが偶数のときのみ、 それぞれ反射が現れる。

菱面体晶の六方晶表記

菱面体結晶は、六方晶の慣用的な単位胞によって表記されることも多い。 六方晶の単位胞を使うときは、0,0,0と2/3,1/3,1/3と1/3,2/3,2/3に格子点がくるように a軸とb軸をとる決まりになっている。 (単位胞をc軸周りに60度回転すると、"International Tables for Crystallography"と合わなくなることに注意)
このときの結晶構造因子を考えると、
exp 2πi0+exp2πi(2h+k+l)/3+exp2πi(h+2k+2l)/3
= 1+2cos2(2h+k+l)π/3
という因子が必ず出てくる。 この式の値は、2h+k+lが3の倍数のとき3、そうでない場合に0となる。

らせん操作に由来する消滅則

らせん操作を対称操作として持つ結晶では、 散乱ベクトルがらせん軸と平行な場合に付加的な消滅則が出現する

61らせん、65らせん

61らせん対称性を持つ結晶では、 x,y,zにある原子と同じ原子がx',y',z+1/6、x'',y'',z+2/6、x''',y''',z+3/6、というように 単位胞内に6個ある。
(00l)反射では、 lが6の倍数でないと結晶構造因子が0となる。
65らせん操作でも全く同じ条件が導かれる。

62らせん、64らせん

62らせん対称性を持つ結晶では、 x,y,zにある原子と同じ原子がx',y',z+1/3、x'',y'',z+2/3、x''',y''',z、というように 単位胞内に6個ある。
(00l)反射では、 lが3の倍数でないと結晶構造因子が0となる。
64らせん操作でも全く同じ条件が導かれる。

63らせん

63らせん対称性を持つ結晶では、 x,y,zにある原子と同じ原子がx',y',z+1/2、x'',y'',z、x''',y''',z+1/2、というように 単位胞内に6個ある。
(00l)反射では、 lが2の倍数でないと結晶構造因子が0となる。

41らせん、43らせん

41らせん対称性を持つ結晶では、 x,y,zにある原子と同じ原子が-y,x,z+1/4、-x,-y,z+2/4、y,-x,z+3/4というように 単位胞内に4個ある。
(00l)反射では、 lが4の倍数でないと結晶構造因子が0となる。
43らせん操作でも全く同じ条件が導かれる。

42らせん

42らせん対称性を持つ結晶では、 x,y,zにある原子と同じ原子が-y,x,z+1/2、-x,-y,z、y,-x,z+1/2というように 単位胞内に4個ある。
(00l)反射では、 lが2の倍数でないと結晶構造因子が0となる。

31らせん、32らせん

31らせん対称性を持つ結晶では、 x,y,zにある原子と同じ原子がx',y',z+1/3、x'',y'',z+2/3というように 単位胞内に3個ある。
(00l)反射では、 lが3の倍数でないと結晶構造因子が0となる。
32らせん操作でも全く同じ条件が導かれる。

21らせん

21らせん軸は、z軸に平行とは限らない。
x軸に平行な21らせん軸を持つ結晶では、 x,y,zにある原子と同じ原子がx+1/2,-y',-z'にもある。
(h00)反射では、 hが2の倍数でないと結晶構造因子が0となる。
同様に、 y軸に平行な21らせん軸があれば(0k0)反射に、 z軸に平行な21らせん軸があれば(00l)反射に、 それぞれ消滅則が出現する

映進操作に由来する消滅則

映進面を持つ結晶では、散乱ベクトルが映進面に平行な場合に付加的な消滅則が出現する。

例1:a軸に垂直なb映進

映進面の位置をx=1/4とすると、 映進操作でx,y,zにある原子が 1/2−x,1/2+y,z に移る。
(0kl)反射に関する結晶構造因子を考えると、
exp 2πi(ky+lz)+exp2πi(ky+lz+k/2)
=[1+(−1)k]exp 2πi(ky+lz)
という因子が必ず出てくる。 この式は、kが奇数のとき0となる。

例2:b軸に垂直なn映進

映進面の位置をy=1/4とすると、 映進操作でx,y,zにある原子が 1/2+x,1/2−y,1/2+z に移る。
(h0l)反射に関する結晶構造因子を考えると、
exp 2πi(hx+lz)+exp2πi(hx+lz+h/2+l/2)
=[1+(−1)h+l]exp 2πi(hx+lz)
という因子が必ず出てくる。 この式は、h+lが奇数のとき0となる。

例3:面心結晶におけるa軸に垂直なd映進

映進面の位置をx=1/8とすると、 映進操作でx,y,zにある原子が 1/4−x,1/4+y,1/4+z に移る。
(0kl)反射に関する結晶構造因子を考えると、
exp 2πi(ky+lz)+exp2πi(ky+lz+k/4+l/4)
=[1+ik+l]exp 2πi(ky+lz)
という因子が必ず出てくる。ここで、面心格子であるため、k+lは偶数である。 上の式は、k+lが4の倍数でないとき0となる。

例4:体心正方晶における[1-10]軸に垂直なd映進

映進面の位置をx=yとすると、 映進操作でx,y,zにある原子が 1/4+y,1/4+x,1/4+z に移る。
(hhl)反射に関する結晶構造因子を考えると、
exp 2πi(hx+hy+lz)+exp2πi(hx+hy+lz+h/2+l/4)
=[1+i2h+l]exp 2πi(hx+hy+lz)
という因子が必ず出てくる。ここで、体心格子であるため、2h+lは偶数である。 上の式は、2h+lが4の倍数でないとき0となる。


物質科学概論IIIのフロントページへ

物質系専攻 有馬孝尚