International Tablesの利用法

International Tables for Crystallography A (以下、単にInternational Tablesと呼ぶ) が利用できるようになることを目指す。 X線回折データを解析して結晶構造を求める場合や、 論文に記載してある結晶構造を把握する場合に必要となる。

International Tablesの重要性

結晶構造を論文等に記載する際には、 必ずInternational Tablesの決まりに則って記載することになっている。
したがって、International Tablesが利用できなければ、 他人が書いた結晶構造のデータを理解することも、 自分が結晶構造を報告することもできない。

空間群ごとの記載事項

結晶空間群は230通り存在する。 International Tablesでは すべての結晶空間群について、次の事項が記載されている。

Wyckoff Position

座標x,y,zのサイトに対称操作を施すと、別の座標へと移る。 リストに掲げられたすべての対称操作を考えると、 x,y,zと等価なサイトを導き出せる。
しかし、対称操作のすべてが、個別のサイトへの移動を示すとは限らない。 つまり、複数の対称操作が同じ場所への移動を示すことがある。 どの操作が、同じ座標への移動を表すかは、 もとの座標x,y,zに依存する。 これに基づいて、座標x,y,zを分類したものが Wyckoff位置である。
Wyckoff位置は、多重度(Multiplicity)と aから順番に表したアルファベット一文字(Wyckoff Letter)で表す。
Wyckoff位置は群論の上では重要であるが、 物質科学において重要なのは、多重度とサイト対称性の二つである。

多重度

慣用的な単位胞に存在する等価なサイトの数を多重度と呼ぶ。

サイト対称性

そのサイトを含む反転対称中心、回転軸、鏡面をまとめたものをサイト対称性という。
サイト対称性は、そこにある原子の波動関数の縮退度や、波動関数間の混成の有無を 決定する。よって、エネルギー準位や、光応答などに密接にかかわる。

サイトごとの消滅則

あるWyckoff記号で表現される複数の等価サイトにある原子からの散乱が、 hkl反射に寄与するかどうかを示したもの。 空間群ごとのReflection conditionsよりも厳しい条件となる場合に記してある。

SubgroupとSupergroup

二次の構造相転移を考える。 二次相転移は何らかの対称要素の破れを伴うので、 ある空間群から移行できる空間群は限られている。 対称操作の破れによって移行する空間群をSubgroup、 対称操作の獲得によって移行する空間群をSupergroupと呼ぶ。
すなわち、空間群Aが空間群BのSubgroupであれば、 空間群Bは空間群AのSupergroupである。

結晶構造の記載方法

International Tablesの約束事を前提にすれば、 結晶構造の記載が比較的簡単になる。
結晶構造を記載する上で最低限必要な情報は次の通り。

次の情報も記載されることが多い


物質科学概論IIIのフロントページへ

物質系専攻 有馬孝尚