結晶構造解析をするには、回折強度の情報が必要になる。
正しい結果を得るためには、データ点の数と、データの精度が重要な要素になる。
さらに、実際上の問題としては、回折強度データ以外に、
元素組成、密度、空間群あるいは点群などの情報があると、
解析がずっと楽になる。
X線構造解析のためのデータ収集方法は、粉末回折法と、単結晶回折法に大別される。 それぞれ、長所と短所を持っている。
最もよく使われている方式。真空中で、電子をターゲット金属にぶつけることで X線を発生させる。
封入管式では、ターゲットの一か所に電子を当て続けるため、 温度の問題から、X線出力が限られる。 実験室で強いX線を得たい場合には、ターゲットの部分を回転させて、 X線が出る部分を一か所にしないようにする。
光速に近い速さの電子が曲がって進むときに、 前方に電磁波が放射される。
用いるX線の波長については、できるだけ多くのhkl点について測定するには、波長が短いほうがよい。また、吸収補正の必要性も少なくなる。
一方で、波長が短すぎると、回折強度が弱くなったり、複数の反射の重畳の問題が起きたりする。
また、試料に含まれる元素の吸収端付近では、トムソン散乱からのずれが大きくなるので、解析が難しくなる場合がある。(逆に、それを積極的に利用することもできる)
したがって、試料によって、好ましいX線波長が異なるが、
一般的には、室内系での粉末回折ではCu管球が、単結晶回折ではMo管球が多く用いられている。また、放射光では、ビームの発散が小さいために、ピーク重畳の問題が軽減される。したがって、30keV程度の高エネルギーのX線を用いた実験がよく行われる。
トムソン散乱過程は、古典的には、入射X線の電場で振動する電子による双極子放射である。 したがって、散乱振幅は、入射X線と散乱X線の偏光方向の単位ベクトルの内積に比例する。 すなわち、
X線管球から発生されるX線の偏光状態は、完全にランダムである。
上記の式より、散乱強度に対する偏光因子は
(1+cos22θ)/2
となる。
Kβ線を取り除くためにフィルターではなくエネルギーアナライザーを用いている場合には、その部分からの寄与が加わる。結局、散乱強度に関する偏光因子は
(1+cos22θAcos22θ)/2
となる。ここで、2θAはアナライザー結晶のブラッグ散乱角である。
加速器から放射される放射光X線の電場ベクトルは、通常、床面に平行である。
したがって、散乱される方向によって、偏光因子は影響を受ける。
単結晶のブラッグ反射を測定する場合、X線に対して、試料を回転させることになる。 このとき、試料の回転速度が一定であっても、逆格子空間における掃引速度は一定ではない。 通常行われる2θ-θ掃引やθ掃引の場合には、この補正として、強度に1/sinθcosθの因子が生じる。
粉末法の場合には、各微小単結晶において、 測定しようとしている散乱ベクトルが入射X線とπ/2−θの角度をなす確率がcosθに比例し、 検出器が散乱X線のところにある確率が1/sin2θに比例する。 これらの積が単結晶の場合のローレンツ因子にかかり、全体として、強度に1/sin2θcosθの因子が生じる。
物質系専攻 有馬孝尚