スピネル化合物
スピネルとはMgAl2O4
の鉱物名(和名:尖晶石)で、ラテン語のspina「とげ」に由来するそうです。スピネル構造は、ダイヤモンド構造を基調とした構造で、一般化学式はAB2X4
のように書かれ、空間群はFd-3mに属しています。Aサイトは4つのXサイトの陰イオンに囲まれ、Fig.1のように孤立した四面体を形成しています。一方、Bサイトは、8つの陰イオンに囲まれ、辺を共有した八面体を形成しています。
スピネル型構造をもつ酸化物や硫化物は、構成元素の組み合わせによって非常に多くの化合物をつくるだけでなく、物性にも非常に富んでいます。そして、これらの化合物は、様々な環境(組成、温度、磁場、圧力など)を変化させることで結晶構造が変化し、それに伴い物性も
変化するという特性をもっています。現在、AサイトにFeまたはMn、BサイトにCrからなるFe1-xMnxCr2O4に対して研究を行っています。
スピネル型Fe1-xMnxCr2O4
四面体サイトに入るFe2+イオンは3d6高スピン状態をとり、Fig.2のように2重縮退e軌道(3z2-r2軌道・x2-y2
軌道)に軌道の自由度をもちます。そのため、FeCr2O4
では、協力的ヤーンテラー歪みにより、TS1〜140Kで立方晶から正方晶(a>c)への構造相転移を生じます。また、TN〜70K以下では常磁性からフェリ磁性への磁気転移を起こします。
一方、四面体サイトに入るMn2+イオンは3d5であり、
軌道の自由度をもちません。そのため構造相転移を起こしませんが、50K以下でフェリ磁性転移を起こします。そこで、Fe2+を軌道自由度をもたないMn2+で部分的に置換したFe1-xMnxCr2O4
の固溶体を作製し、磁化測定や放射光X線回折実験を行っています。磁化測定はSQUID、放射光X線回折実験は
高エネルギー加速研究機構Photon Factory
のBL1A(Fig.3)、BL3A(Fig.5)を利用しています。
実験結果の一部はFig.4に示してあるように、Mn置換量の増加に伴い、構造相転移温度の急激な減少が見られますが、それとは対照的にフェリ磁性転移温度は緩やかに減少していき、Mn置換によってあまり変化していません。これは、Mn置換が軌道を希釈するため軌道秩序を強く抑制しているが、逆にスピンを希釈していないのでスピン秩序にはあまり影響しないことが考えられます。この結果、x〜0.5において構造相転移温度と磁気転移温度がクロスし、この組成を境にして、正方晶相でのc方向への伸び、縮みが変化することがわかっています。さらに、Mnを10%ドープすると、斜方晶への転移が見られ、この斜方晶への転移はフェリ磁性が関係していることもわかっています。これらのことから軌道希釈すると、構造相転移を引き起こすのが、x〜0.5を境に軌道間の相互作用からスピン秩序のもとでのスピンー軌道相互作用に変化することがわかりました。
フェリ磁性
格子点を2種類の副格子に分け、各格子点上において同じ大きさのモーメントをもつスピンが逆向きに向いて、自発磁化を生じないのを反強磁性といい、大きさの異なったモーメントをもつスピンが逆向きに向いて、自発磁化が生じるのをフェリ磁性といいます。
磁歪
前に述べたように、Fe1-xMnxCr2O4ではスピン秩序に誘起されて立方晶から正方晶への構造相転移を引き起こすのはx>0.5の場合なので、
現在、その範囲にある組成の単結晶を作製したり、、この物質に対して磁場を印加しながら、歪みゲージというものを使って歪み測定を行ったり、磁場を印加したときに結晶内ではどうなっているかを調べるために
高エネルギー加速研究機構Photon FactoryBL3A(Fig.5)にて磁場中X線回折実験を行ったりしています。