ペロフスカイト型Mn酸化物の電荷軌道整列に対する電場誘起相転移

研究紹介(もう少し詳しく)

強相関電子系(Strongly correlated electron system)は、電子がお互いに強いクーロン反発で関係し合っている系を言います。
これは通常の金属との対比であり、金属は物質中で互いのクーロン反発を無視出来るような自由電子を持っていますが、 強相関電子系の電子はそれを無視出来ないので、強い相関をもつ電子の系という名前が付いた(と思われます)。
この強相関電子系では、従来実現されなかった面白く有用な現象がいくつも報告されています。 例えば、高温超伝導(液体窒素温度以上での超伝導)や巨大磁気抵抗効果(磁場をかけることで電気抵抗が大きく低下する現象)などは有名で、 応用としては、高温超伝導は米国での送電における高温超伝導ケーブル(住友電気工業など)などで実用化されており、 また、巨大磁気抵抗効果は近年の大容量ハードディスク実現に一役買ったGMRヘッドへの次世代候補として研究されています.

ところで、電子は電荷を持っているわけですが、それ以外にスピンという磁石の元となる性質を持っています。また、 軌道という電子が動き回れる入れ物のようなものがあります。電子の持つ電荷・スピン・軌道という3つの性質が、 互いに関係し合っているのが、強相関電子系の大きな特徴です。


関係し合っている、というのは何を意味するでしょうか。それはそれぞれの性質を切り離して考えることは出来ないということです。 例えば、通常の物質では磁場をかけることで磁化が生じますが、それは物質内のスピンを磁場で揃えたことになります。 磁場によりスピンだけが揃うのが普通の物質です。 しかし、それにより電気抵抗が変化したり、電気分極が同時に発生したりするのが、電荷とスピンの強く関係し合った強相関物質です。

私が取り扱っている物質(ペロフスカイト型Mn酸化物{Bi,Sr}MnO3)は、特に電荷と軌道が強く関係し合った物質です。軌道というのは性質としてあまりメジャーなものでは ないのですが、簡単にいうと電子が運動している範囲を軌道と呼びます。惑星が運動する経路を軌道といいますが、それを量子力学で焼き直した概念です。 物質中でのこの軌道の形は周期表の原子ごとに決まっていて、取り上げているMnの場合には、以下に示す5つの異なる形の軌道を持っています。


対象としている物質中では、MnはMn3+とMn4+という二つのイオンに半分ずつ分かれています。Mn4+では下の3つの軌道に、 Mn3+では下の3つと左上の軌道に電子が存在しています。下の3つの軌道が合わさると全体として丸い軌道になるため、 軌道として特徴的な形を持っているのは左上の軌道を持っているMn3+のイオンということになります。 Mn3+とMn4+がある平面に規則正しく分布しているのが電荷軌道整列状態です。


図は赤い円がMn4+、緑色の長細い形のものがMn3+を表しており、下地に示したチェッカーボード型に整列しています。これを電荷整列と呼び、 さらにMn3+の形が上下の向きと左右の向きのもので規則的に並んでいる状態を軌道整列状態と呼びます。 これらの合わさったものが電荷軌道整列状態です。

このとき、この面に垂直な方向はどうなっているかというと、この面が幾層も連なっています。 ではその層の間の長さはどうでしょうか。Mn4+一個の大きさを基準に考えると、 長細いMn3+は全て面に寝ているので、面方向はMn4+よりも長くなっていると思われます。 逆に層間の長さはMn3+が向いていない分Mn4+と同じくらいと思われます。 測ってみるとこの物質では実際に層間の方が面内よりも長さが短いのです。 このように軌道の形は物質の形や大きさを決める要素になっています。

ここで、電荷と軌道の強い相関を利用すると、面白いことが可能になります。 電流を流すことで物質の形を変えることができるのです。 さきほどの層間と面内で長さが異なるということと、電気伝導度が異なることを利用します。 この物質では、層間の方が面内よりも電気が流れやすいのですが、 ある方向から電流を流すと、その流れた方向に垂直な面に電荷軌道整列面が再配列するのです。 結果として、電流を流すことで物質の形が変わります。 これは電流の方向により、原子の軌道を操っていることに相当するので、 電場をかけることで高分子が向きを変える液晶との類似で、「軌道液晶」と呼んでいます。

と、上で述べたましたが実はこれは今実験中のことです。そのようになると証明されているものではありませんが、 これをほのめかすような現象は観測されています。この実験に興味のある人は一緒に研究しましょう。

研究室での日々(有馬研について)

他の人も書いていますが、有馬研の特徴は様々な点で幅広いことだと思います。
まず、各人が個別のテーマを持っています。 4年生で配属されても独立のテーマが与えられます(与えられました)。 また、テーマ自体も非常に幅広いですし、他にやりたいことができたら乗り換えることも可能です。
実験手法も一般的な物性測定(抵抗率、誘電率、磁化率など)から分光や回折実験など多岐に渡っています。 出張実験も多く、茨城県つくばの高エネルギー加速器研究機構や兵庫県播磨のSpring-8などの大型施設で 実験ができる研究室は全体としてはそう多くないです。
研究の進め方も、まず試料(研究対象とする物質)を作成するところから始まります(私は共同研究者の方にもらっていますが、有馬研ではそれはまれな例です)。 また、今のところ研究室でできない測定などがあれば、機器を発注して測定系も自分で立ち上げます。 つまり、その測定が出来るように測定プログラムを作ったり、装置を設計したり、回路を組んだり全て自分でやります。 得られた実験データの解析も、解析を補助するプログラムを組むこともあります。
研究として、また勉強として色々なことをしたい、学びたいという人には向いている研究室と思います。

四年生でこの研究室に配属されての感想を書いておきます。

金野翔太(KONNO Shota)

Email : konno(atmark)mail.tagen.tohoku.ac.jp

Last modified : July 2007