研究紹介 ver.4.0

キーワード:磁性強誘電体・フラストレーション・有馬研

磁性強誘電体における電気分極の磁場制御とその機構についての研究


コンテンツ 研究背景 研究について 研究室について 大学院について 研究業績

☆研究対象物質

  斜方晶マンガン酸化物、MnWO4などの磁性強誘電体

☆研究背景

 相関電子系としての遷移金属酸化物では電子の有する電荷、軌道、スピンという自由度が重要な役割を担っています。本研究では電荷が局在した誘電体における磁気的性質と誘電的性質の相関に主眼を置いています。

 誘電体は私たちの身の回りでも用いられています。赤外光の受光素子、インクジェットプリンタに使用されるピエゾ素子、あるいは高い誘電率を持つことからからキャパシタとして多くの電子機器の中に組み込まれており、さらに強誘電体メモリFeRAMなどを目指して現在も最先端で研究され続けています。これらの中で特に強誘電体と呼ばれる物質では
 @温度を下げることにより自発的に電気分極が生じる
 A電場を印加することにより電気分極の方向を一方向にそろえることができる
 B電場の向きを反転することにより電気分極の向きが反転できる
といった性質を持ちます。この強誘電体に対しては相転移現象としての物理的な興味からの研究、あるいは電気分極の向きを電場印加によって反転することができるという性質を活かして、メモリー素子などへの応用のための工学的な見地からの研究が行われています。


電場による電気分極の反転の模式図


 この誘電体に磁気(スピン)という新しい自由度を加えることによって、新しい物理現象の発見や新たな物性制御の機構の開発につながる可能性があります。
 誘電的性質の磁場による制御についての実験的研究は1960年代に始まり、1990年代までは電気分極と磁気秩序を同時に有する物質における電気磁気効果として研究されました。電気磁気効果を簡単に言えば、物質に磁石を近づけると物質の中に電気分極が生じる、または物質に電場を印加したときに磁石になるという現象です(下図参照)。電気磁気効果を示す物質では電気分極に対して磁場あるいは磁化に対して電場という交差相関を利用した物性制御が期待されます。1990年代までに多くの研究者の努力によりさまざまな物質の発見と、物質中の対称性に基づいた理論が構築されました。


電気磁気効果を用いた電気分極と磁化の発現の模式図(by K.T.)


 2000年代に入ると磁性と強誘電性をあわせ持つ物質はマルチフェロイック物質として改めて研究されるようになり、2003年にTbMnO3におけるサイクロイドらせん型の磁気転移に伴った強誘電性が発見された後、磁気秩序によって誘起される強誘電性を有する物質が次々と発見されています。これらの物質では磁場を印加にすることによって電気分極の大きな変化(ON-OFFのスイッチングや方向の変化)を引き起こすことができることから、物性物理学および材料科学の分野において活発に研究されるようになっています。

 私の研究では磁性と強誘電性が共存するマルチフェロイック物質における電気分極の磁場による制御及びその機構の解明を目的としています。このため電気分極の磁場制御についての新しいアプローチとして電気分極の記憶効果および磁場方位の回転が電気分極に与える効果の研究と、微視的な機構の解明の手段として中性子線や放射光X線を用いた磁気散乱実験によるスピン構造の研究を行っています。

MnWO4、Ba2Mg2Fe12O22などについてはこちらに詳しい説明があるのでご覧ください。

      

☆磁性誘電体における巨大な電気磁気応答             一番上へ

 研究対象である磁性強誘電体の中でも、特にTbMnO3という物質では多くの研究がなされています。
TbMnO3は、Mnイオンの磁気的な相互作用にフラストレーションが存在するフラストレート磁性体です。Mnイオンの磁気秩序の温度変化を考えますと、42K以下になるとスピンがb軸方向を向いた共線的な磁気秩序となり、さらに温度を下げると27K以下ではスピンがbc面で回転しているサイクロイド型の磁気秩序となります。このサイクロイド型の磁気秩序となる温度領域において電気分極が発生し、磁性と強誘電性を同時に有する磁性強誘電体となります。
TbMnO3における磁性と強誘電性のカップリングについてまとめると以下のことが明らかになっています。
 @Mnイオンのスピンがサイクロイド型の磁気秩序となるときに電気分極が生じること
 A電場により電気分極の方向を操作することで、Mnイオンの磁気秩序を操作できること
 B磁場を印加することにより電気分極の方向が90度変化すること

@とAでは電気分極とMnイオンの磁気構造に強い結合があることが示唆されます。一方Bは磁場による電気分極の操作が可能であることを示しています。このような電気分極の磁場による操作の機構の解明と、磁性強誘電体の可能性を広げるという考えからTbMnO3に対して次のような実験を行いました。


TbMnO3の磁気秩序と電気分極



TbMnO3における磁場誘起電気分極フロップ


☆磁場方位走査による電気分極制御

 TbMnO3では磁場をa軸、b軸に沿って印加することにより電気分極の方向がc軸方向からa軸方向へと90°回転する”電気分極フロップ”が起こりますが、磁場印加により生じるa軸方向の電気分極がなぜ出現するかは明らかになっていませんでした。また、このa軸方向の電気分極は磁場を消失させても、再び磁場を印加するとある程度の大きさを保ってその方向をメモリーしているという指摘がなされており、磁場方向を反転しても電気分極は反転しないということがわかっていました。
 このため磁場による電気分極の制御方法の開拓と”電気分極フロップ”の起源についての理解を得るために、磁場を印加した状態で磁場の強さを変えずに方向のみを変える”磁場方位走査”という実験を行いました。この結果として磁場の回転により電気分極の方向を反転できること電気分極フロップへのTbイオンのモーメントの役割などを新たに発見しました。これらの結果は電気分極が消失している領域においても、磁気秩序によって電気分極の大きさや向きを記憶していることを示しており、マルチフェロイック物質における新しい物性制御方法につながると考えられます。
(結果の詳細はこちらの論文に報告しています。
Physical Review Letters, 99 227206 (2007)

 現在は磁場と電気分極の関係をさらに詳細に調べることや、ミクロな機構はどうなっているのか?、他の物質ではどうか?といった関心から研究を進めています。



TbMnO3における磁場方向の回転による電気分極の反転



☆研究方法(学部生向け)

@どんな物質を作りたいか、どんな現象を理解したいか考える

 まずは研究対象を決めます。過去のテーマや今年度のテーマはこちら

A物質の作り方、測定方法を調べる

 過去に作成方法が確立している物質については論文などで作成方法を調べます。新しい測定手法を開発する際も過去に行われている研究が参考になります。論文は主にPDF形式で入手できますが、図書館に行かないと無い場合もあります。図書館には100年前の論文が本棚にあったりするので驚きます。

B結晶を作成する

 文献通りに作っても作れないことが多々あるので試行錯誤します。結晶成長の勉強や物理化学の勉強をするととても役立ちます。有馬研究室では主に単結晶を育成して物性の測定を行います。


       
(左)説明会時に活躍するCrを含んだAl2O3(ルビーです) (右)実験中のU君

Cマクロな物理量の測定

 研究室では、液体ヘリウム温度の低温から室温程度までの温度領域において、誘電分極の有無や誘電率、抵抗率、磁化率などの測定を行います。主に磁場が誘電的性質に及ぼす効果を調べていますので、磁場印加時の誘電率測定や電気分極の測定を行います。この実験は、多元研の隣にある金研の強磁場超伝導材料研究センターでも行います。

Dミクロな物理量の測定

 マクロな実験で面白い物性が現れたときに、では各イオンではどうなっているのか?ということが実験的に分かるのが回折実験です。結晶構造、磁気構造の周期性をX線や中性子線の回折実験によって観測します。高エネルギー加速器研究機構PhotonFactory、大型放射光施設SPring-8、東大物性研附属中性子科学研究施設などに出張して実験を行います。

         
(左)強磁場センターの15テスラマグネット  (右)SPring-8の6軸回折計


☆おすすめな点 研究室での生活          一番上へ

 有馬研究室では特異な性質を示す物質を探索する一方で、新しい測定系や測定方法の開発も行います。このときには新しい測定装置の設計から測定プログラムの作成まで行うことができます。装置の立ち上げから測定まで行えることは、有馬研究室ならではの経験でしょう。
研究に限らず日々の生活は各自の責任にまかされています。出張やゼミの日でなければ自由に研究や勉強を行うことができます。

ゼミ(週2回?) 

 論文および研究紹介と教科書の輪読を行います。物質(磁性、誘電性、結晶構造など)についての考え方と、上手にプレゼンテーションする方法を学びます。

テニス(週1〜2回?) 

俗に言うATC(Arimaken Tennis Club)、今年は金曜日の朝8時から活動中。そろそろコートが2面必要?

研究発表 

大学院生になると研究発表を行う機会が増えます。論文であったり学会発表であったりしますが、多いのは研究会や学会での発表でしょう。有馬研究室全員で参加するのは年2回の日本物理学会です。そのほかに研究会やセミナーなどに参加します。

物性おじさまの会

月1のペースで行われる勉強会。毎回色々な分野の先生がいらっしゃるのでとても勉強になります。余ったお菓子はおいしくいただきます。

歓迎会・旅行・打ち上げ・楽天 etc. 

 みんなでわいわい騒ぎます。突然ピザやお好み焼きパーティーがあったりします。2007年の記録は3次会でした。



☆大学院について          一番上へ

〜修士課程への進学〜
修士課程の生活を紹介します。

 学部との違いは研究室にいる時間が多いということでしょうか。研究では教科書には載っていないことに突き当たるので、必要な知識を学びながら自分で考えることや人と議論することが必要となります。
 1年次は学部の頃のように講義があります。私が受けていたときは出席とレポートで成績が決まっていましたが、近年は期末テストが導入されたようです。毎週テストやレポートを課してくれる魅力的な講義(添削してもらえるってありがたいことですね)もあり積極的に参加すれば力がつくと思います。
 1年次に講義を取り終わるので、2年次は研究室での実験にほとんどの時間を使います。ペースは人それぞれですが研究活動をがんばりましょう。研究発表を積極的に行うことで良いことがあるかもしれません。
 大学院生のアルバイトであるTAは3月に前期の募集、7月に後期の募集があります。学部生の講義や学生実験での手伝いですが、自分の復習にもなりとても勉強になります。
 就職活動は1年次の3月〜2年次の6月くらいでしょうか。博士課程に進学する場合は2年次の12月頃に願書を書き、2月の修士論文発表会で試験が行われます。


〜研究室以外のこと〜
 東北大学として大学院生に色々なサポートが用意されていますので、時間の許す限り使ってみるといいと思います。
 2007年度は高度技術経営塾に参加しました。技術経営?と思われるかもしれませんが、マネジメントやコミュニケーション能力などは専攻に関係なく必要だと思います。専攻が異なる博士課程の学生あるいは博士研究員の人との議論や取り組みの中で、自分とは全く異なった考え方に触れることができ、とても刺激になりました。
理学研究科では大学院GP、物理学専攻でも物理産学連携フォーラムや理学博士のキャリアパスを開催したりと、色々催されています。

東北大学 高度技術経営人財キャリアセンター
理学研究科 大学院GP
物理学専攻 理学博士のキャリアパスなどの情報


☆研究業績はこちら            一番上へ