キーワード:磁性強誘電体・フラストレーション・有馬研
磁性強誘電体における電気分極の磁場制御とその機構についての研究
斜方晶マンガン酸化物、MnWO4などの磁性強誘電体
☆研究背景
相関電子系としての遷移金属酸化物では電子の有する電荷、軌道、スピンという自由度が重要な役割を担っています。本研究では電荷が局在した誘電体における磁気的性質と誘電的性質の相関に主眼を置いています。
誘電体は私たちの身の回りでも用いられています。赤外光の受光素子、インクジェットプリンタに使用されるピエゾ素子、あるいは高い誘電率を持つことからからキャパシタとして多くの電子機器の中に組み込まれており、さらに強誘電体メモリFeRAMなどを目指して現在も最先端で研究され続けています。これらの中で特に強誘電体と呼ばれる物質では
@温度を下げることにより自発的に電気分極が生じる
A電場を印加することにより電気分極の方向を一方向にそろえることができる
B電場の向きを反転することにより電気分極の向きが反転できる
といった性質を持ちます。この強誘電体に対しては相転移現象としての物理的な興味からの研究、あるいは電気分極の向きを電場印加によって反転することができるという性質を活かして、メモリー素子などへの応用のための工学的な見地からの研究が行われています。
電場による電気分極の反転の模式図
電気磁気効果を用いた電気分極と磁化の発現の模式図(by K.T.)
研究対象である磁性強誘電体の中でも、特にTbMnO3という物質では多くの研究がなされています。
TbMnO3は、Mnイオンの磁気的な相互作用にフラストレーションが存在するフラストレート磁性体です。Mnイオンの磁気秩序の温度変化を考えますと、42K以下になるとスピンがb軸方向を向いた共線的な磁気秩序となり、さらに温度を下げると27K以下ではスピンがbc面で回転しているサイクロイド型の磁気秩序となります。このサイクロイド型の磁気秩序となる温度領域において電気分極が発生し、磁性と強誘電性を同時に有する磁性強誘電体となります。
TbMnO3における磁性と強誘電性のカップリングについてまとめると以下のことが明らかになっています。
@Mnイオンのスピンがサイクロイド型の磁気秩序となるときに電気分極が生じること
A電場により電気分極の方向を操作することで、Mnイオンの磁気秩序を操作できること
B磁場を印加することにより電気分極の方向が90度変化すること
@とAでは電気分極とMnイオンの磁気構造に強い結合があることが示唆されます。一方Bは磁場による電気分極の操作が可能であることを示しています。このような電気分極の磁場による操作の機構の解明と、磁性強誘電体の可能性を広げるという考えからTbMnO3に対して次のような実験を行いました。
TbMnO3の磁気秩序と電気分極
TbMnO3における磁場誘起電気分極フロップ
TbMnO3における磁場方向の回転による電気分極の反転
☆研究方法(学部生向け)
@どんな物質を作りたいか、どんな現象を理解したいか考える
まずは研究対象を決めます。過去のテーマや今年度のテーマはこちら。
A物質の作り方、測定方法を調べる
過去に作成方法が確立している物質については論文などで作成方法を調べます。新しい測定手法を開発する際も過去に行われている研究が参考になります。論文は主にPDF形式で入手できますが、図書館に行かないと無い場合もあります。図書館には100年前の論文が本棚にあったりするので驚きます。
B結晶を作成する
文献通りに作っても作れないことが多々あるので試行錯誤します。結晶成長の勉強や物理化学の勉強をするととても役立ちます。有馬研究室では主に単結晶を育成して物性の測定を行います。
(左)説明会時に活躍するCrを含んだAl2O3(ルビーです) (右)実験中のU君
Cマクロな物理量の測定
研究室では、液体ヘリウム温度の低温から室温程度までの温度領域において、誘電分極の有無や誘電率、抵抗率、磁化率などの測定を行います。主に磁場が誘電的性質に及ぼす効果を調べていますので、磁場印加時の誘電率測定や電気分極の測定を行います。この実験は、多元研の隣にある金研の強磁場超伝導材料研究センターでも行います。
Dミクロな物理量の測定
マクロな実験で面白い物性が現れたときに、では各イオンではどうなっているのか?ということが実験的に分かるのが回折実験です。結晶構造、磁気構造の周期性をX線や中性子線の回折実験によって観測します。高エネルギー加速器研究機構PhotonFactory、大型放射光施設SPring-8、東大物性研附属中性子科学研究施設などに出張して実験を行います。
(左)強磁場センターの15テスラマグネット (右)SPring-8の6軸回折計
有馬研究室では特異な性質を示す物質を探索する一方で、新しい測定系や測定方法の開発も行います。このときには新しい測定装置の設計から測定プログラムの作成まで行うことができます。装置の立ち上げから測定まで行えることは、有馬研究室ならではの経験でしょう。
研究に限らず日々の生活は各自の責任にまかされています。出張やゼミの日でなければ自由に研究や勉強を行うことができます。
ゼミ(週2回?)
論文および研究紹介と教科書の輪読を行います。物質(磁性、誘電性、結晶構造など)についての考え方と、上手にプレゼンテーションする方法を学びます。
テニス(週1〜2回?)
俗に言うATC(Arimaken Tennis Club)、今年は金曜日の朝8時から活動中。そろそろコートが2面必要?
研究発表
大学院生になると研究発表を行う機会が増えます。論文であったり学会発表であったりしますが、多いのは研究会や学会での発表でしょう。有馬研究室全員で参加するのは年2回の日本物理学会です。そのほかに研究会やセミナーなどに参加します。
月1のペースで行われる勉強会。毎回色々な分野の先生がいらっしゃるのでとても勉強になります。余ったお菓子はおいしくいただきます。
みんなでわいわい騒ぎます。突然ピザやお好み焼きパーティーがあったりします。2007年の記録は3次会でした。